これは、旅行の話ではありません。わが家の、番外編です。
7歳の長女が、自分の絵を売って6万円を貯め、自分の力で欲しいゲーム機を手に入れる——そう決めてから、うちで起きていることを、進捗報告のように書いていく連載です。うまくいくかどうかは、正直わかりません。それでも書こうと思ったのには、きっかけがありました。
プロの演奏と、子どもの歌声
先日、家族でオーケストラのコンサートに行きました(→府中の森でのコンサート体験記はこちら)。プロの音に、鳥肌が立ちました。何十年も一つの楽器に向き合ってきた人たちの音は、やっぱりすごい。
ところが同じ日、会場で子どもたちがいっしょに歌う場面がありました。音程も揃っていないし、上手とも言えない。でも、その歌声に、私はプロの演奏と同じ量の何かを受け取ったのです。
家に帰ってからも、その「同じ量」がずっと引っかかっていました。そして、一つの仮説にたどり着きました。
子どもが作り出すものには、今しか作れない希少性と、エネルギーが込められているのではないか。
上手さでは測れない価値が、たしかにそこにある。その日撮った下手な写真を、私はどうしても消せませんでした。(このときに考えたことは、別のエッセイに詳しく書いています。)
「これがやりたい」
その数日後です。長女が、動画配信で誰かがゲームをしている実況にすっかりハマりました。そして、目を輝かせて言いました。
「パパ、このゲームがやりたい」
調べてみると、そのゲームは、うちにある機種では動きませんでした。新しいゲーム機が必要で、本体とソフトを合わせると、だいたい6万円。安い買い物ではありません。
普通なら、選択肢は二つでしょう。
- すぐに買ってあげる
- 誕生日かクリスマスのプレゼントにする
どちらも、悪い選択ではありません。でも、あのコンサートの仮説が、頭の片隅に残っていました。
娘の「やりたい」という気持ちは、今しかないエネルギーです。それをただ「買ってもらって終わり」で消費させてしまうのは、なんだかもったいない——そう思ったのです。
「あなたの絵を、パパが買う」
長女は、絵を描くのと工作が大好きです。そこで、こう提案してみました。
「あなたの描いた絵を、パパが1枚100円で買うよ。そのお金を6万円貯めたら、自分のお金でそのゲーム機を買おう」
正直、ピンとこないかな、と思っていました。6万円は、7歳にとってとてつもない金額です。100円の絵を、単純に600枚。気の遠くなる話です。
ところが娘は、「やる」と即答しました。そして、その場でホワイトボードに向かって、絵を描き始めたのです。
最初の一枚は、「ねふじー」
娘が最初に描いてくれたのは、リボンをつけて風船を持った、猫のような女の子のキャラクターでした。名前を聞くと、「ねふじー」と言います。娘が自分で考えた、この世に一体だけのキャラです。

上手ではありません。手足の長さもバラバラです。でも、あのコンサートで感じた「今しか作れないエネルギー」が、たしかにこの一枚に入っている気がしました。
私はその絵を、約束どおり100円で買い取りました。娘は、生まれて初めて自分の力で稼いだ100円を、大事そうに握っていました。
「捜査」と書かれたノート
数日で、娘の様子が変わってきました。
稼いだお金を財布代わりのジップロックに入れて管理し、使っていないノートを持ち出して、帳簿をつけ始めたのです。表紙には、こう書いてありました。
「おかねもうかる日記」
そして囲みの中に、力強く一言。
「すいっち2を手にいれる」

——実は、このノートには、少しだけ因縁があります。
これはもともと、私が警察学校時代に「捜査」の授業で使っていたノートでした。使い残した白紙のページがもったいなくて、ずっと取ってあったものです(授業の中身に関わる記述は、すべて処分してあります)。だから表紙には、昔の私が書いた「捜査」の二文字が残っていました。
娘は、その二文字の上に赤い線をすっと引いて、その上に「おかねもうかる日記」と書いたのです。
私は15年間、「捜査」という言葉の側で働いてきました。決して明るいばかりの世界ではありません。その入口の一冊が、子どもの手で、希望の側に書き換えられていた。それを見たとき、うまく言葉にできない気持ちになりました。
コンサートで立てた「子どもには、今しか作れないエネルギーがある」という仮説の、ひとつの答えを見せられた気がしたのです。
この連載で、私が見ていきたいこと
というわけで、わが家の小さな挑戦が始まりました。これから、娘の進捗をこの連載で報告していきます。
ただ、先に正直に書いておきます。私は、達成できなくてもいいと思っています。
もちろん、6万円を貯めてゲーム機を手にできたら最高です。でも、それ以上に価値があるのは、そこへ向かう過程で娘が身につけるもの——お金を管理する力、コツコツ続ける力、「人は何を欲しがるのか」を考える力です。仮に途中でやめてしまったとしても、それはそれで、正直に書きます。子育ては、成功だけを切り取る記録ではないと思うので。
もしあなたのお子さんが今、何かに夢中で「欲しい」と言っているなら、その「欲しい」は、何かを育てる種かもしれません。ただ叶えてあげるのもいい。でも、少しだけ遠回りをさせてみるのも、案外わるくないですよ。
次回は、娘がどんなふうにお金を管理し始めたか——あの「おかねもうかる日記」の中身の話を書きます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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