「知らない人についていっちゃダメだよ」——ほとんどの家庭で、一度は言っている言葉だと思います。
でも、それだけでは足りません。
私は警察官を15年間やっていました。その経験から言うと、子どもを守るために本当に大事なのは「ついていかない」より前の段階——危ない人に、そもそも近づかせないことです。
この記事では、公的機関のデータと啓発内容をベースに、①実際にどんな声かけがあるのか ②子どもに何をどう教えるか ③声をかけられたらどうするかをまとめます。あわせて、我が家で3姉妹に実際に教えていることもお伝えします。
・声かけは「親切」や「困りごと」を装って近づいてきます。見た目では分かりません
・教えるべきは「ついていかない」より前に「近づかせない・距離を取る」
・「知らない人=全員危険」と教えるのは逆効果。助けを求められない子になります
・実害がなくても、迷わず通報してください。小さいうちに対処すべき事案です
子どもへの声かけ・連れ去りの実態|データで見る
まず、事実を正確に押さえます。
警察庁の資料によると、令和5年中、13歳未満の子どもが被害者となった刑法犯は526件。そのうち略取誘拐が204件で、全体の38.8%を占めています。子どもの被害のなかで最も高い割合です。
狙われやすい時間・場所・年齢
| 時間帯 | 午後3時〜6時頃(下校時から夕方)に集中 |
| 曜日 | 平日に多い(下校時間帯があるため) |
| 場所 | 道路上(通学路・生活道路)が最多。次いで公園、マンションの共用部分、商業施設 |
| 年齢 | 小学校低学年(1〜3年生)の被害割合が高い |
| 加害者との関係 | 「面識なし」が約8〜9割 |
統計とは別に、現場にいた者としての肌感覚をお伝えします。
子どもが狙われやすいのは、大人の監護の目が行き届かなくなるタイミングです。
登下校中/公園/商業施設/トイレ——共通しているのは「親や先生の目が、一瞬でも切れる場所」だということ。
場所そのものより、「見ている大人がいなくなる瞬間」に注目してください。
実際にある声かけのパターン
警察の防犯啓発資料に記載されている、代表的な声かけのパターンです。
- 道案内を頼む:「駅への行き方を教えて」「車に乗って案内してほしい」
- 困りごとを装う:「迷子の犬を一緒に探して」「荷物を運ぶのを手伝って」
- 家族の知り合いを装う:「お母さんが事故で入院した。車で送っていくよう頼まれた」
- 物や利益で誘う:「お菓子を買ってあげる」「面白いものを見せてあげる」
- 撮影を口実にする:「写真を撮らせてくれたらお小遣いをあげる」
- 注意・指導を装う:何もしていないのに「危ないよ」「そこで何してるんだ」と近づく
ここで気づいてほしいのは、どれも「親切」や「正当な理由」の形をしているということです。子どもが警戒しにくい入り方をしてきます。
「怖そうな人」「変な服装の人」といった外見での判断は、防犯として役に立ちません。実際、公的機関の啓発も「外見」ではなく「行為」に着目しています。
教えるべきは「どんな見た目か」ではなく「どんなことをしてきたか」です。
基本の合言葉「いかのおすし」
2004年に東京都と警視庁が考案した、子ども向けの防犯標語です。学校でも広く使われています。
| いか | 知らない人についていかない |
| の | 知らない人の車にのらない |
| お | おお声を出す |
| す | すぐ逃げる |
| し | 大人にしらせる |
まずはこれを覚えさせるのが基本です。ただ、私はここに、もう一段前の話を足すべきだと思っています。
★我が家で3姉妹に教えていること
「いかのおすし」は、声をかけられた”後”の行動です。でも本当に安全なのは、そもそも声をかけられる距離に入らないこと。
そこで我が家では、長女(7歳)と次女(4歳)に、こう教えています。
① 不審な人を早く見つけて、物理的に距離を取る
気づくのが早いほど、逃げる時間ができます。
② 歩くときは顔を上げて、左右に首を振る。ときどき後ろも見る
下を向いて歩かない。「見ているよ」という姿勢そのものが、相手に近づきにくさを感じさせます。
③ 音にも注意して、後ろから来る車や自転車を把握する
目だけでなく耳も使う。車での接近に気づけるかどうかは大きな差になります。
お気づきかもしれませんが、これは警察官が街を歩くときの警戒行動とほぼ同じです。特別な技術ではありません。「顔を上げて、周りを見る」だけです。
そして、これは子どもでも今日からできます。スマホを見ながら歩かない、うつむいて歩かない——それだけで、狙われにくさは変わります。
寝る前の絵本で、意識を育てる
もうひとつ我が家でやっているのが、寝る前に防犯の絵本を読み聞かせることです。
防犯は、一度話して終わりでは身につきません。かといって、繰り返し注意すると子どもは怖がるだけになります。絵本なら、物語として自然に、繰り返し触れられます。「怖い話」ではなく「知っておく話」として入っていくのがいいところです。
具体的な逃げ方・距離の取り方
- 距離:両手を広げた以上(およそ2メートル以上)を保つ。腕をつかまれない距離です
- 車から声をかけられたら:絶対に車に近づかない。立ち止まらず、歩きながら・走りながら離れる
- 逃げる方向:車の進行方向とは逆に走る。相手がUターンする時間を稼げます
- 声:「助けて」が言えなくてもいい。とにかく大きな声を出す
- 防犯ブザー:持たせるだけでは意味がありません。ためらわず引く練習を家でしておく
「逃げる方向」は意外と知られていません。車と逆方向へ走る——これは家で一度言葉にしておくだけで違います。
防犯ブザーの持たせ方
- 位置:ランドセルの側面ではなく、胸元(肩ベルトのDカン)など、すぐ手が届く場所へ
- 点検:学期の始めなど、定期的に音が鳴るか・電池が切れていないか確認
★「知らない人は全員危険」と教えてはいけない
ここは、防犯を教えるうえで最も大事なバランスです。
「知らない人はみんな怖い人」と教えてしまうと、こうなります。
本当に困ったとき——迷子になった、けがをした、誰かに追われている——そのときに、周りの大人に助けを求められない子になってしまう。
これでは本末転倒です。だから、「近づいてはいけない相手」と同時に「頼っていい相手」をセットで教えてください。
・制服を着ている人(警察官、駅員、店員)
・「こども110番の家」のステッカーがある家やお店
・子ども連れのお父さん・お母さん
「知らない人についていかない」と「困ったらこの人たちに助けてもらう」は、両方セットで初めて成立します。
伝え方も大切です。脅すのではなく、「あなたが大切だから、安全に過ごす約束をしよう」というスタンスで。ロールプレイのように遊びながら練習すると、子どもは楽しく覚えます。
声をかけられたら|通報をためらわないでください
「実害はなかったし……」「大げさかも……」——ここで、元警察官としてはっきり申し上げます。
迷わず通報してください。
私は現職のとき、子どもが関わる事案には特に警戒レベルを上げて、全力で取り組んでいました。同僚たちも、通常の事案よりギアを上げて対応していました。
理由は明確です。子どもへの声かけ事案は、性犯罪や誘拐といった重大事案に発展する可能性を秘めているからです。だからこそ、問題が小さいうちに対処すべき事案なのです。
通報したあと、警察はこう動きます
「通報したら、その後どうなるんだろう」と不安な方のために、実際の流れをお伝えします。
- 不審者の外見的特徴が手配される
- 付近にいる警察官へ情報が共有される
- 声かけがあった場所の周辺を捜索する
- 特徴の似た人物を発見したら、職務質問を行う
つまり、あなたの1本の通報が、その地域のパトロールを動かします。「様子を見よう」と待っている間に、次の子が声をかけられるかもしれません。
110番と#9110の使い分け
| 連絡先 | 使うとき |
|---|---|
| 110番 | 今さっき声をかけられた/今つきまとわれている/実害があった |
| #9110 | 昨日変な人がいた/最近気になる人を見かける、など緊急でない相談 |
伝えるべき情報:不審者の特徴(性別・おおよその年齢・服装・髪型など)/逃げた方向と手段(徒歩・車・バイク)/場所と時刻/子どもの様子。
通報後は、学校や園にも連絡を。学校から他の保護者への注意喚起や集団下校などの措置につながります。
💡 交番の頼り方は「旅行先で交番に相談できること」でも詳しく解説しています。
旅行先・おでかけ先での注意点
知らない土地では、子どもも大人も勝手が分かりません。
- 人混みでは手を離さない。イベント・商業施設・観光地は一瞬で見失います
- 公共トイレは個室の前まで付き添う(トイレは目が切れる代表的な場所です)
- 着いたらすぐ「困ったらあそこ」を教える:交番、駅員、インフォメーション、店員のいる場所
- 姿が見えなくなったら、迷子と連れ去りの両方を想定してすぐ動く。施設スタッフに伝え、交番か110番へ
特に最後の1点。「もう少し自分で探してから」は、いちばん危険な判断です。時間が経つほど、移動距離は伸びていきます。
まとめ|怖がらせるのではなく、できるようにする
- 13歳未満の子どもの被害では略取誘拐が最多(令和5年・38.8%)。加害者は面識なしが8〜9割
- 狙われるのは「大人の目が切れる瞬間」。登下校・公園・商業施設・トイレ
- 声かけは親切や困りごとを装う。外見では見分けられません
- 教えるのは「ついていかない」の前に「顔を上げて周りを見る・距離を取る」
- 「知らない人=全員危険」は逆効果。頼っていい大人をセットで教える
- 実害がなくても、迷わず通報を。小さいうちに対処すべき事案です
子どもの防犯で一番よくないのは、親が不安なまま、何も教えられずに終わることだと思います。
今日、寝る前にひとつだけでいい。「歩くときは顔を上げて、まわりを見ようね」と伝えてみてください。それだけでも、確実に一歩前進です。
※この記事は、警察庁・警視庁・文部科学省などが公表している情報と、筆者の元警察官としての経験にもとづいています(情報の確認日:2026年7月20日)。統計は令和5年のものです。制度や統計は更新されるため、最新情報は警察庁および各都道府県警察の公式サイトでご確認ください。緊急の場合は迷わず110番通報してください。
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